INTERVIEW<GIFTED designer/増﨑啓起>③理想とするジュエリー


ジュエリーデザイナー兼クラフトマンの増﨑啓起。

主宰する福岡のアトリエ併設ジュエリーショールーム 「MEDIUM」を拠点に、ブライダル&ファインジュエリーラインの「YES」と、シルバーを主な素材とした現代における普遍性を再考するユニセックスなジュエリーライン「GIFTED」の2つのオリジナルブランドを中心に展開している。

今回は全3部に分け、一人の人間として、また一作り手として敬愛する彼の来歴や今に到る思考の断片にインタビュー形式で触れて行く。

第3部となる今最終章では理想とするジュエリーについて話をうかがった。

※前章は以下リンクより

INTERVIEW<GIFTED designer/増﨑啓起>①これまでの変遷

INTERVIEW<GIFTED designer/増﨑啓起>②素材とオリジナリティ


余白を備えたジュエリー、 式だけで成立している空の神殿

窪田(以下K):増﨑さんが理想とするジュエリーとはどんなものですか?

増﨑(以下M):コンテンポラリージュエリーは横に置いて、あくまで日常的に着用するうえでのという条件付きであればですが、先ずは頑丈である事ですね。コレに関しては1番最初に制作職に就いたブランドのフィロソフィーをそのまま受け継いでいると思います。次にあげるとすればモチーフ主体ではなく、ある程度の解像度で立体を捉えられないと見過ごしてしまうような、ジュエリーの造形そのものに滲み出るオリジナリティを備えている事ですかね。コレクションのそれぞれに一貫した独特の佇まいがあるというか。あとは、ジュエリーそのもののクオリティとは裏腹にというかなんと言うか、変に意味が盛られていないもの、着用者がそれぞれに感情移入できるような余白を備えたジュエリーが理想です。

K:増﨑さんの作るものって『重み』が印象的なんですよね。重さって視覚的には伝わらない要素な筈なんですけど、ぱっと見で飛んでくる密度と圧力がありますし、実際想像していた以上の量感を実物からは感じる事が出来ます。内々の話ではありますが、以前「100年を越えられる造形を、、、」って仰ってたのが個人的にはずっと刺さっていて、この重量感は歳月を越える為のタフネス(頑丈さ)に繋がっているんだと思っています。御守りによく喩えられるジュエリーは有象の神とも言えると思いますし「担い手・着け手」を「祈り手」と喩え重ねるならそこに余白が無いことはナンセンスですね。

M:重さに関してはちょっと僕自身は作り手特有の分からなさがあったりするのですが、仮に窪田さんが仰られるような見た目からの想像以上の重さがあるとすると、大き過ぎず小さ過ぎず、薄過ぎず厚過ぎず、且つやや大きくやや厚くという絶妙なラインの量感を設定できているという事なのかもしれませんね。

密度を感じる造形というのを一貫して狙ってはいて、GIFTEDのジュエリーはちょっとした部分的なパーツの太さをセオリーより0.1mm太くしていたりするのですけれど、そういった板厚や線径の細々した設定が一役買っているのでしょうね。細かい話になりますが、例えば丸カンだったら線径Φ1mmに対して内径がΦ3mmだとか、何となくの慣例で汎用性の高そうな数字を設定しがちで、パーツ屋さんのカタログで丸カンとか見てもらうと、スカスカしたバランスのものが圧倒的に多いんです。最終的にそのジュエリーの佇まいを決定するのは、そういう細かい要素の蓄積による結果で、見る人もその内訳は自覚していないけれど目からの情報として認識はしていると思っているので、その辺はかなりねちっこく神経を注いではいます。

同じ程度のサイズのペンダントを並べた時に何となく存在感の違いで片方にだけ目が行くみたいな場面においては、そういう微細な作り手の意志の介入が明暗を分けますからね。

重さについて窪田さんのお話を聞いて、やっぱりそうなんだなという感慨なのですが、実物を見て思っていたより大きいというケースが僕の作るジュエリーでは多いのかもしれませんね。ちなみに、何故か分からないのですが僕は逆に写真を見た後で実物のジュエリーを見た時に小さいと感じる事が多いです。

「100年を越えられる造形」に関しては何でもかんでも物作り万歳みたいな風潮に対して感じる違和感と言いますか。物を作るのって環境に負荷もかけてしまうしお財布にも優しくないし、ある種の罪深さみたいなものを頭の隅に置いて作っているような気がします。だからこそ物体の強度として、せめて100年は、、、みたいな気持ちは常にありますね。

意味合いの有無については、昔はそんな事無かったのですけれど最近「このジュエリーはこういう意味です」みたいなものに全く乗れなくなっちゃったんですよね。昔はクロスとメダイに対する違和感みたいなものに限定されていたのですが最近はインディアンジュエリーのモチーフとかですら何だか飲み下せなくて。いや、自分別にインディアンじゃないしな、、、って。仮にずっと昔に先人が見つけたものであったとしても、あくまで自分は自分で必然性を伴ってその対象に出会いたいというか。そういう個人的な変化もあって、GIFTEDのジュエリーは努めて意味を押し付けないようなデザインを心がけていますね。もちろん、自分なりにその造形を発端に考察したり意味を当ててみたりとかはありますが、繰り返すようですが別にそれをお客さんに同調してもらわなくても良いし「カッコいい」だけで手に取ってもらって構わないというか。そういうのもあって、GIFTEDは比較的ありきたりな「円」とか「2」や「4」という風に、極力普遍的な要素で構成されたものが多かったりします。 式だけで成立している空の神殿というか。

「感動」の最上級は「混乱」

K:重さって重要だなって思うようになって、それがここ5年くらいまた加速しているんですよね。色んなジュエリーにスポットライトが当たる時代だからってのもあると思うんですけど、その中で琴線に触れるものってやっぱり一握りで。重けりゃ良いって訳では勿論ないんですけど、そこに意図より意志が先ずあるのかってとこが肝な気がしていて。軽くても重くてもちゃんとそこにそれが感じられるものに心が動く気はしますね。

色んな人に話してますけど、何でもないものが特別になるんですよ結局。特別って実は何でもないもの。けど、そこにはやっぱり声になりきれない理由があって、結局それって意志っていうめちゃくちゃ曖昧なオブラートに包まれた形容になってしまうんですけど、突き詰めた結果それくらいでしか言い表せない感覚的言語の賜物なんですよね。机上の空論・砂上の楼閣みたいな、大きな矛盾を孕んだ強固な城的な。増﨑さんが言ってる0.1mmとかの解像度の差が凄く大切で、こういう解像度の有無によってぱっくり分かれると感じます。ジュエリーってある種宇宙なんでどこまでも細分化されるはずなんですよね。まぁジュエリーって枠に絞らずとも万物言ってしまえばそうなんでしょうけど。「物体的な重量」と「精神的な質量」ってまた別ですけど、ストーリー性みたいなもので押し切るだけのものって天井があるし、先の話じゃないすけど、選ぶ人が乗る・載せる為の余白って押し付けを最小限にしたものだとは思います。なんていうか、音量はデカくないけど耳あたりのいい声をもったものというか。

M:なるほど。 窪田さんは仕事柄たくさんのジュエリーを手に取る機会があるので、その中で感じられる事も多そうですね。重さの重要性に関しては強度とも比例してくるので、自分としてはよほど繊細さに振ったような作品でなければ必然的にある程度の重さも伴ってくるという認識ですかね。手に取った時に重さから感じる存在感みたいなものもあるというのにも同意です。ただ、最近は度を越して繊細過ぎて120%壊れるなみたいなものも少なくないので其処はちょっと作り手も売り手も考えた方が良いように思いますね。ジュエリーの場合は基本的に形状が重さを決定する場合がほとんどなので、結局どこまで自覚的に細部のディティールを作っているのか?という点が重要で、全行程における一つ一つの意思決定が重さも含めた最終的なクオリティに直結するのですけれど、案外「意思・意志」には死角があって油断するとすぐに脇が甘くなったりするので「何となく」の決定を排除するというのを徹底しています。

なので、自分が作るジュエリーはある種の独自の規格みたいなものが存在してたりしますかね。板厚なら最低〇〇mmで線径ならΦ〇mmというのがジュエリーの部位毎に異なるのですが、ある程度の基準値があってそれを作るものによって最適な数字へと調整するというのをどんな作業をしている時でも常にやっているように思います。出来上がったジュエリーの重量を含め、すべての要素は作り手の意志が反映されるし、考えていなければ当然に無意識や惰性で下した意志決定までもが反映されてしまうので気を抜けるような場面はほぼ無いですね。

K:Fuligoは色んな作り手達の造形を紹介しているのでジャンルや偏見に縛られず、様々な方向から俯瞰で見れているといった一定の自負はあります。重さっていうワードで極端に美化して持ち上げるつもりは無いという事は話しましたが、強度面は増﨑さんの仰る通りやっぱり比例しますよね。死角ってワードは的を得ていると感じますし、感覚的な物事程ロジックありきなとこはあると思います。基礎があっての技術っていうのに類似するような。今話が出ましたが、線径とか板厚とかっていうとこの絶妙な匙加減を僕は増﨑さんの作品には感じるんですよね。特に今年ローンチされた <QUAD LOCUS BANGLE> はその最たるものだと感じました。意思決定というものがちゃんと内包されているとこの話を踏まえるとより思えますし。

開口部まで緻密にデザインされたQUAD LOCUS BANGLE。緩やかにシェイプするアウトラインも印象的。

M:死角に関しては極端な話、どんな作り手にでもあると思っているところがありますかね。追求していれば追求していればこその死角が生じたりするものなので、自分の場合は追求しつつも同時にある意味では真逆のマインドを自分の中に共存させるようにしていたりするので、複数の相反するロジックとフラットに向き合う技術みたいなものはあるのかなと思います。これに関しては自分がジュエリーという枠の中でも領域毎にかなり異なる価値観にどっぷり浸かって距離を置いて、というのを複数回繰り返してきたからだと思います。 とある領域の価値観て、言ってしまえば言語みたいなものなので、自分の場合はジュエリーという言語において複数の言葉が喋れるみたいなところはやや特殊かもしれません。

なので、死角は誰でもあるというのが大前提で、それを自覚しているかどうかが重要だと思いますしその方が色んなものを決めつけずに済むかなとは思いますかね。踏み絵を必要としていないというか。ジュエリーにおいて多言語のチャンネル、価値観を備えているというのは自分にとっての基礎であり技術みたいなところはあるのかもしれません。バングルに関しては所謂「丸線」というものにフォーカスしてGIFTEDらしい「線」の元素みたいなものを模索してみたら今回のバングルが出ましたね。上手く言えませんけど、凄くGIFTEDらしいというか、自分らしいアプローチのものが表出してきたなと思いますね。

K:「混乱させられたいし混乱させたい」みたいな事は以前から仰っていますが、そこにもリンクするのですかね。 断絶する・継続するって明確なオンオフでは無くて、距離を最適化する為の動き直しみたいな事を都度やると。 大系的に物事を捉えるには必要な動作だと思います。どんなに美しい彫刻作品もシンプルなハンマーの一振りには敵わない、なんて話がありますが、ある種ここでいう金槌的なものが増﨑さんの作品にはダブる気はしてます。 シンプルに物事を薙ぎ倒すというか、無効化するというか。

M:以前にお話した、僕の個人的な感覚として「感動」の最上級は「混乱」だという話ですね。わからないものをわからないまま作るというのは混乱を呼び起こすような作り方とも言えるので、今回のバングルに関しては多少リンクするかもしれませんね。シンプルに物事を薙ぎ倒せるかどうかに関しては現時点ではあくまで物によるかなという感じですが、オリジナルチェーンと今回のバングルは割とそういう存在かもしれません。

K:何故だか分からないけど涙が出る、みたいな感覚に近いのかもしれないですね。脳内が追いつかないけど五体というか精神は高揚しているという。結局自分の後ろに道が出来ていて、結果は前より後ろにのみ転がってるってとこでしょうか。理想ってなんなんだろうなぁ、って手を動かし続けて研鑽を積んで行った先でふと振り返った時にぼやっと薫る様な。

M:正にそうですね。見通しが立たないと手が動かないという作り手も少なくないと聞きますが、自分の場合は何も分からなくても手だけは動くので、仰るとおり結果だけが後ろに転がっていて前方は見えても半歩先程度までですね。その意味では敢えてコマーシャルジュエリーの文脈でGIFTEDをやっているというのは、参照しても有益な前例やロードマップめいたものもほぼ無く果てしないので性に合っている気がします。理想的なジュエリーについては冒頭でも書きましたけど、制作を続けて行くうえでの理想的なシチュエーションという意味であれば、常に何かしら分からないことがあって且つそれがずっと無くならない状態かなと思いますね。

K:娯楽って知らない事・分からない事ありきですからね。理想を突き詰める事は娯楽の探求にもある種等しい気がします。楽しくないとその舟には乗ってられなくなりますもんね。

長かった仕込み期間の終わり

K:最後に、ブランドとしてGIFTEDは昨年10周年を迎え、ショールームのMEDIUMも今年の11月で10周年を迎えるという話ですが、この約10年間を経て、或いはこの先の10年へ向けて今現在の感慨はいかがでしょうか?

M:兎にも角にも遠回りをしたなという10年間ではありましたかね。かと言って、他の道筋があったかというと一切無かったと言い切れるほどに必要な行動を必要なタイミングで起こし続けた10年間だったとも思えているので、長かった仕込みの期間が終わろうとしているのかなという風には思いますね。

2012年にショールームを構えた後に10年越しで段階的に内装の改装作業を進めてきたわけですけれど、どの施工を振り返ってもあの時にあのタイミングでしか出来なかったなというような必然的なタイミングで小さな改装を積み重ねて今に至っているので、ここからは12月に控える展示会へ向けての制作に加えて10周年の11月23日へ向けてすべての改装作業を終わらせるべく予定を組んで行こうかなと。

10年という歳月について思う事があるとすれば、段取りが悪く融通の利かない性分の自分としては、冗談抜きで仕込みに丸っと10年費やすんだなというのを身を以て思い知りましたね。

ブランドのGIFTEDにせよショールームのMEDIUMにせよ、ようやくそれらが終わりつつあるなというところに立っているので、11年目からはずっとやりたかった企画展を打ったりですとか、自分が手を動かす以外のアウトプットの機会も徐々に作っていけたら良いなと思っていますし、GIFTEDはこの10年で定番のラインナップに関してはある程度出揃った感もあるので、今後は徐々にGIFTEDならではのユーモアや遊びの要素、また更なる作り込みの要素を織り交ぜていけたらなと考えています。

あと、近年は制作にすべての工数を全振りしてしまっていてディレクション面とかではほぼ何もできていなかったので、GIFTEDや MEDIUMらしいチャンネル毎のアウトプットのルーティンを徐々に模索したいですね。そこには細々したディスプレイ什器の制作とか、また色んな要素が入ってくるので引き続き時間をかけてじっくりということにはなりますけれど、結局ここからの10年もまた手探りで色んな事に手を伸ばしつつ、少しでもやれる事を増やしてそれらを相互に影響させ合いながら作りたいものを少しずつ膨らませ、折々のタイミングで実現させていけたら良いなと思います。

<了>


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