INTERVIEW<Maison de l’abeille/保田萌>
『Maison de l’abeille/メゾンドラベイユ』は昆虫を愛でるデザイナー兼クラフトマンである保田萌により2017年に創設されたジュエリーブランド。
幼い頃の昆虫採集や植物採集をテーマに、感銘を受けたウイリアム・モリスやルネ・ラリックの絵画・造形に描写された生き物の美しさを追求し、身につけられる芸術としてのジュエリーを考案。
近年は自身での天然石加工にも意欲的に取り組み、更なるオリジナリティを日々追求しています。
今インタビューでは現在に到るまでの変遷についてお話を伺った。
絵画からジュエリーへ
――ジュエリー制作を始めたきっかけはなんだったんですか?
「小さい頃からファインアート、油絵や水彩画を描くことが好きで、物心ついた時からそれで生きていくのかなという気持ちが漠然とありました。
そこから、学生時代を経て東京芸大の受験をしたんですけど、そこまでずば抜けた才能なんて持ち合わせていませんでしたから、1次試験で落ちてしまって、元々試験用に対策するとかできるタイプじゃなかったので、それ1回きりで受験は辞めてしまったんです。
それでもまだ絵を描いていたくて、しばらく粘るためにセツモードセミナーと言うカルチャースクールと専門学校の間のような学校に入りまして、そこでは水彩と立体裁断にのめり込んでいたんですけど、あまり就職というイメージが湧かずに卒業してしまいました。
そこからもう少し具体的に職業と言うものを考えた時に姉が唐突に渋谷にあるジュエリー学校いいんじゃない?って勧めてくれたんです。
それと同じ時期ぐらいに、芸大受験でお世話になった絵画の予備校に行った時に、恩師にもジュエリーとか向いてるんじゃない?と言われて、それも唐突だったんで、じゃあちょっと行ってみようかなという気になって、それでジュエリー制作の道に進み出したんです」
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※現在のオフィシャルサイトにも使用されている鮮やか青を基調とした絵画。
様々な部屋(側面)を持つ蜜蜂の巣箱
――ふとしたきっかけからジュエリーの道を歩む様になったんですね。活動していくにあたって現在のブランド名やアトリエ名に至った経緯をお聞かせください。
「まず、ブランド名についてですが、”Maison de l’abeille/メゾン ド ラベイユ”とは『蜜蜂の家』という意味があります。
これは、アトリエ名に因んだ意味もあるんですが、私自身が昆虫が好きで、幼少期はそれこそ昆虫採集に明け暮れていました。
その経験を芸大受験時代の時に思い出し、作品として昆虫を描くことが増えたんです。
そうすると、昆虫を描いた時は先生の評価が高く、私の制作意欲は好きなものを作る時が一番良く作れる、気持ちが入るとわかったんです。
その頃から何かを作るなら昆虫をメインにしようと考えていました。
そしてブランド立ち上げでロゴを考えていた時に、昆虫の中で何が一番好きかと思って調べていた時に一番しっくりきたのが『蜜蜂』だったんです」
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※蜂をアイコンとしたブランドロゴ。
「正確にはオオマルハナバチとか、クマバチみたいなずんぐりした蜂なんですが、ざっくり説明すると花の蜜を集める[ミツバチ科]という感じです。
ただ蜜蜂という名前だけではジュエリーブランドのイメージが湧かないので、色々考案した結果、メゾンドラベイユになりました。
それから、アトリエ名なんですが、[ateliers la Ruche/アトリエ ラ ルーシュ]の”la Ruche”とは『蜂の巣箱』という意味ですが、こちらもファインアートと繋がりがあります。
フランス・モンパルナスに実在する、私の好きな画家たちか多く活躍した1920年代に彼らが集う”la ruche/ラ リューシュ”というアトリエがあったそうなんです。
私自身ものづくりのスタートは絵画でしたので、そのアトリエの名前から拝借しました。
[リューシュ]を[ルーシュ]と書いているのは、日本語で読んだ時に読みにくい感じがしたので、発音を単純にしています。
また、atelier/アトリエに”s”をつけて複数形にしているのは、私自身のものづくりはジュエリーのデザイン・制作にとどまらず、石の研磨やデイスプレイの制作など様々に広がっています。
その様子を様々な部屋を持つ蜜蜂の巣箱に例え、大きく連なっていく様願いを込めて複数形にしています」
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※蜜蜂や蜻蛉の羽を模した耳飾り。細かな技巧の中にモチーフへの愛情が感じられる。
――「巣」や「部屋」を広げていく上でどういった物事からインスピレーションを受けますか?
「私自身が素直に美しいと思うのは、無駄のない線の流れですかね。
例えばアールヌーヴォー期のルネラリックのジュエリーはとても好きです。
あと、ボタニカルアートという昔の図鑑の挿絵なんかはよくジュエリーの参考にするために見ています。
実物の植物や昆虫を観察するのも好きなんですが、平面に落とし込められた動植物の絵は今まで気づかなかった良さ、多分その作者が感じている美しさみたいなものを感じられるので参考にしています。
あとはアンティークやビンテージのジュエリーですかね、作者が不明だったりするんですが、モチーフに込められた想いなどがしっかり感じられるデザインだったり、少し無骨な出来栄えのモチーフなども多いんですが、その”ちょっと突っ込みどころのある仕上がり”がなんとも言えない味を出していて愛おしいですね」
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※直筆のラフ画や、鳥や人の手足、蛇やクラシックな印象を与えるイニシャル造形など。
「意味を与えること」「”裏”を見せないこと」
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――近年は意欲的にインタリオ制作にも取り組まれています。天然石に施す画はどの様に決めているんですか?
「インタリオの図案については、インタリオというものへの意味を考えて選抜しています。
インタリオはハンコの様に使用する用途があり、その人自身を表すモチーフだったり家紋、イニシャルなどで制作されてきた歴史があります。
シグネットリングなどもそうですね。
お客様からのご希望のモチーフがあればそれがお客様にとっての1番のモチーフだと思うのですが、ご自身のモチーフを決められていない方も多いので、そんな方にもご自身のモチーフを見つけてもらえるよう、モチーフひとつひとつに意味を与えながら制作しています。
また、ジュエリーにおいても同じ想いがあり、アンティークモチーフなどは特にどんな意味を見出せるかとか考えながら制作しています」
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※古くから太陽の使いとされるスカラベをはじめとした様々なインタリオ。猫や表情をあしらった太陽からはユーモアも感じ取る事ができる。ブランドアイコンである蜜蜂も勤勉・純潔・知恵・豊穣のシンボルとされており、その起源は古代ギリシア時代まで遡る。
――天然石の有無に関わらず金属造形についても一定の秩序というかこだわりが感じ取れます。制作時に気に留めていることがあれば教えてください。
「ジュエリー制作で大事にしていることは<”裏”を見せないこと>ですかね。
原型を作る際など、裏と思って作ってしまうと、それはどうしても”裏側”になってしまうんです。
ネックレスやピアス・イヤリングなんかはどうしても”裏”が出来やすくなってしまうので、どうしたら”裏”にならないかをいつも考えながら制作しています」
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※どの角度から見てもそれぞれの美しさや遊び心が汲み取れる造形。
続いていくものづくり
――今後の展望について聞かせてください。
「そうですね、古い道具や素材を作り直したりして、サイクルの見えるジュエリーを作って広めていきたいと思っています。
元々インタリオの制作を始めたのも、リユースの石やネガティブな要素(クラックや内包物)の多い石に付加価値をつけるというところから始まった活動ですし、天然石も限られた資源ですので、綺麗な面だけみていてはいけないと思うんです。
欠けたら終わり、使ったら終わりではなく、アンティークジュエリーとかヴィンテージの時計の様に、傷が入りながらも大切に使っていくという認識を私のブランドや活動から広めていけたらいいなと思っています」
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<了>
窪田
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